今から八年前。
妻の実家近くに引っ越した。
のどかな雰囲気を感じられる大らかな土地。急行も止まる駅は、車で10分程。
最寄りの駅まで徒歩40分。
うん、まあまあの田舎だね。
そんな場所で。
私は引っ越してから職場を探す暴挙に出ていた。
成人してからだいぶ経つ良い大人が。
なんのプランも無い。
職場自体が少ないかもしれないのに。
まあ、なんとかなるだろう。
高を括っていた。
逆にそれが功を奏する。
本当になんとかなったのだ。
しかも、職場は家の近く。
単車で5分の場所。
—神様、ありがとうございます。
感謝しながら仕事をさせてもらっていた。
近い職場の良いところ。
昼休憩に、一旦家に帰る事が出来る。
ご飯を食べ、のんびり一服した後、またひと仕事。
そんなリズムが出来上がっていた。
ある日の出来事。
いつもの様に、家に帰ってご飯を食べる。
完全にオフモード。
それから徐々に仕事モードに入っていく。
さあ、行ってきます。
出かける直前。
どんな話かは覚えていない。妻と玄関で喋っていた。
もう行かないと。
靴を履こうと足を下ろす。
それと同時に。
—ガチャ。
音と共に玄関の扉が開く。
見知らぬ初老の男が入ってきた。
ギョッとする私。
ほんの少しの空白。
—〇〇神社へはどう行けば。
彼が宣う。
私の脳は、咄嗟に都合の良い、
「事勿れモード」
に入った。
玄関を出、指を刺す。
彼はそそくさと自転車で行ってしまった。
—今の人誰。
私は勝手にストーリーを作っていた。
ここは妻の実家近く。
チャイムも鳴らさなくて良い位の、顔見知りが入ってきて、少し質問した。
そんな物語。
—知らんよ。あんな人。
…
え。
今なんて言ったの。
ゾッとした。
のんびりした良い話は、最悪のストーリーに変換された。
シャッターを締め切った家。
鍵のかかってない玄関。
チャイムを鳴らさない男。
あのタイミングに妻だけしか居なかったら。
彼女は普段は気丈だが、あのシチュエーションでは…
田舎のイメージ。
みんな良い人。
そ、ん、な、わ、け、が、無い。
当たり前だ。
どんな所にもどんな人だって居る。
戸締り用心。
それから、一層気をつける様になったとさ。
今週のお題「ゾッとした話」