我が演劇部には、所謂部室と呼ばれる場所が無かった。
何処かで誰かが、
—あっ、あれ部室に置いて来た。
というセリフを聞くと、羨ましい気持ちになった。
我々が練習する場所は専ら、
書道教室。
放課後空いている教室といえば、ここくらいだった。
そして、公演が近くなると体育館の舞台を使わせて貰う。
緞帳は上げないで、
こそこそ、
練習した。
いつか、自分達の部室が欲しい。
そんな事を夢見ていた。
そんなある日の放課後。
私はその時までしらなかったのだが、大道具などを入れている倉庫があるというのだ。
そこを掃除しろとの命を受け、現場へ急行した。
場所は自転車置き場の端っこ。
物置きが置いてあった。
へえ、これが我々の倉庫だったのか。
—さあ、やるで。
よっこらよっこら動き出し、中の物を一つづつ取捨選択していく。
懐かしい物やら、知らない先輩が使っていたであろう小道具が我々の目を楽しませてくれた。
その中で。
14型サイズのテレビがあった。
—これつくのかね。
確か、校舎の壁面にコンセントがあった様な。
あーこれこれ。
…つくやん。
裏は。
ビデオ端子やん。
—リールコードもあるやん。
—奇跡やん。
—アレができるな。
コクリ。
皆の瞳が、鈍く輝き出した。
そして次の日。
倉庫の中は、三分のニ程何も置いてない空間になっていた。
人がくつろぐのには充分なスペースだ。
誰が持って来てくれたのかは覚えていない。
スクール鞄の中から出て来たのは、
我らがスーパーファミコン様。
当時、
が、大人気だった。
当然、我々も熱中していた。
先生に見つかれば、没収モノだ。
そんな危険を冒してまで、
学校でスーファミ。
背徳感とスリルでテンションがあがる。
さあ、壁面にコンセントを刺して、リールを、からからのばして、倉庫の中へ。
テレビとスーファミのスイッチオン。
ソフトは勿論、ストII。
ついた。
やった。
ゲームもできる
「部室」
を遂に我々は手に入れたのだ。
安息の地。私はこの現状に、うっとりしっぱなしだった。こんな空間があれば、あんな事や、こんな事が出来るかもしれない。
妄想が止まらなかった。
そんな最中、下校するのだろう、女子生徒が喋りながら近づいて来た。
やばい、ゲームもってきてるのがバレる。ボリュームを下げろ。喋るな。
息を潜め、彼女達二人組が通り過ぎるのを待った。
きっと、電源コードが壁から倉庫に通路を横切っているのを見たのだろう。
—これ、なんやろ?
女子の、この次の言葉。
私は一生忘れられない。
—だから、
—演劇部って、
—「気持ち悪い」
—って言われるねん。
がーん。
がーんって、本当に聞こえるんだな。
と言う事をこの時初めて知った。
そして、それからすぐ倉庫の中の誰かが物音を出してしまい、二人はそれに気づき走って逃げてしまった。
友人は一連の流れを見て大笑いしている。
「だから」?
「だから」って言った?
他にも色々気持ち悪い事をしていた。
あれもこれも、その上での
「だから」
なのだろう。
そして、皆が言っているのだ。
はあ。はあ。胸が苦しい。
そんなに嫌わんでも。そこまで、目立ってないやろ。
色々な負の感情が交錯し、ぶつかっては私を混乱させた。
結局、倉庫部室改造計画は、これにて幕を閉じた。
そんなセリフを聞いたからかどうかは、もう覚えてはいないが。
今思っても、あの時はツラかったなあ。 結構傷ついたで。
それから三十年。
横に居る妻は言う。
—猫しりは、気持ち悪いなあ〜
—もっさりして、べたべたして、ぷにぷにしてる。
—だが、それが良いねん。
世の中は広い。
「捨てる神あれば拾う神あり」
仕事であれ、人付き合いであれ、恋愛であってさえも。
全てに「それ」があると気付いたのは、本当に最近。
こんな私でも、受け入れてくれる世界があるんだと言う事。
現状に甘えすぎず、振り落とされない様に、
らしさ
を大切に、ぼちぼち頑張っていこうと思う。