「私、猫しりくんのファンなんです。」
三者面談での第一声。
ものすごく面食らったのを覚えている。
時あたかも中二。
多感な時期である。
私が虐められたのは、中一。
そこから進級時にクラス替えがあり、いじめグループとは違う組になった。
だが、心の傷跡はまだまだ癒えず、少し触れただけでも
ひりひりずきずき
していた。
これからは、目立たない様に、息をひそめ波風をたてず、生きて行こうと決めていた。
休み時間には、めっきり少なくなってしまった友人と、大学ノートに落書きをして遊ぶ。
それがない時は机に突っ伏して狸寝入りを決め込む。
周りの楽しげな声が聞きたくないのに耳に入ってくる。
もう、うんざりしていた。
現在も、将来にも。私自身にも。
そんな陰気な私のファン?
「だって謎なんですよ。次の行動が読めないんです。」
母親にそんな説明をしていた。
若い女性の先生。生徒にも人気があった。サバサバしていて物怖じしない。生きのいい不良学生にも堂々と対峙していた。
話は続く、
「でも、勿体ないと思う。」
?
「悔しいとか、思わないんでしょう。この点数をとって、次はもっといい点を取りたいとか。」
はい。そうです。
もういいんです。成績なんて。未来なんて。ほっといてください。
と、ここで面談は終了した。
私は、怒り、悔しさ、等と言ったマイナスの感情を極力避けてきた。
それは虐められる前から。
小学校の卒業アルバム。
寄せ書きには、
「正直」
と書いた。
清く正しく美しく
明鏡止水
凪
北斗の拳で言えば「トキ」
懐が深く、いつも穏やか。何でも出来るのに前に出ない。
そんな人間に憧れていた。
いや、当時は寧ろ体現していた気になっていたのかもしれない。
—いつからだろう。
怒りや悔しさがとても必要な感情だときづいたのは。
楽しい
嬉しい
等のプラスの感情だけでは到達することができない場所。
そこに行く為のエネルギーである事を。
目標に届かず挫けそうな時、私の中の冷凍庫に真空パックされている怒りや悲しみの思い出を取り出して解凍する。
ふう。コンニャロ。今に見ていろ。
これですよね。先生。あの時伝えたかったメッセージは。
あの頃の私は、短絡的で、怒りと言えば相手を殴りつけたり、椅子をもって暴れる事だと思っていたんです。
あの時、それに気づいていれば、トキになりえたかもしれません。
この間、公園に家族で公園に行きました。
マリーゴールドが綺麗に咲いていましたよ。
こんな、のんびりとした気持ちを感じる様になれるなんて。
先生のおかげです。
ありがとうございました。
なんて手紙を書こうと、先生の住所を旧友に聞いたのだか、分からずじまい。
だから、こうやって、空に呟いている。