物心がついた時からこの、赤いラジカセがあった。
所有者は六つ違いの姉。
それは、いつも机の端に置かれていた。
姉はそれでよくラジオ番組を聴いていた。一番覚えているのは日曜日の昼下がり。歌のベスト10番組。
—ぶーんぶーんべすとてん
ぶんぶんべすとてん
印象的なジングルで始まるこの番組を私も横で、一緒に聴いたものだ。
私もこのラジカセを借りて、コロちゃんパックを聴いたり、テレビジョンの前に置いて直接歌を録音させて貰ったりもした。ついでに、
秘め事も。
たまーにだが、家に誰もいない時があった。
よし、今だ。
そっと押入れの中に、ラジカセを持って私は入って行く。
そして、おもむろに
「録音ボタン」
を押す。
当時大人気だった近藤真彦さんの、
「ギンギラギンにさりげなく」
を小声で歌う。
あの時私は五歳位だったろうか。曲はうろ覚えの部分が多かった。なので、最初の方はすっ飛ばして所謂「サビ」の部分だけを
小声で。
歌う。
そして巻き戻して聴く。
アハアハアハ。
暗がりで一人聴く自分の声は、なんと言うのか、私をイケナイコトをしている気分にさせた。それに付随して、
快 感
が堰を切ったようにやってくるのだ。
味を占めて、数回程キメた後だっただろうか。
その日の夕飯。
兄がニヤニヤしている。
何だろう。気にせずご飯を食べていると、彼はおもむろに口を開いた。
—猫しりちゃ〜ん
「あまっちゅべいべ〜」
って何〜
?!?!?!?!?!
!?聴かれていた?!
歌詞の中にある、
I get you baby,I need you baby ,I want you baby, Right on!!
この部分を全部、あまっちゅべいべーで押し切っていた。
英語である事は分かっていたが、何せ5歳児。聞こえるがまま歌っていた。
録音したテープは分からないところに隠していた筈なのに。何故だ。何故だ。
混乱している間にも、からかわれ続ける私。
恥ずかしさが凄い勢いで私を満たして行く。
赤く。より赤く。
気がつけば、私は、ラジカセより真っ赤になっていた。
50年近く生きているが、あの
「恥ずかしさ」
に勝る感情に未だ出会っていない。
あとがき
コロちゃんパックとは、アニメ主題歌を集めた商品で、カセットテープと本が付いていた。アラレちゃんとか、ゲームセンター嵐の主題歌が入っており、良く買ってもらった。