表と裏の高速回転

色々な気持ちを忘れない様に

  私は30歳までカナヅチだった。

 

 水自体には抵抗はなく、レジャー目的の流れるプールや、ウォータースライダー等は楽しく遊ぶ事は出来た。

 

 ただ、学校のプールは、

 

「ある事」

 

 が気に掛かって、まともに泳ぐ練習が出来なかった。

 

 お尻にある、大きな黒いほくろのようなアザのせいで。

 

 それは丁度、スクール水着に隠れるか隠れないかという微妙な所に位置していた。

 

 見つけられると絶対に冷やかされる。

 

 私は必死になってそれを隠していた。

 

 そんな事ばかり気にしていたから、授業に身が入る訳がない。

 

 いつしか、アザとカナヅチの双子のコンプレックスがすくすくと育ってしまっていた。

 

 雨でプールが中止になる。

 

 周りはとても残念がる。私も内心ほっとしながらも、残念なふりをする。

 

  また、私はあの当時、「努力」というものを理解していなかった。   

 

 一回やって、出来ないものはもう出来ないと決めつけていた。

 

それから、何年も経ったある時。

 

 何かのCMだったか、プールの下からの映像があり、泳者の鼻から泡がでている。

 

 息をしている。

 

息ができる?

 

 その時まで、水の中では息が出来ず、息継ぎの時に吐いて吸う行為をしないといけないと思い込んでいた。

 

 そう言えば、先生が

 

「ぶくぶくぱっ」

 

 と顔を水につけたり上げたりする練習をさせていた。

 

そういう事か。

 

長い時を経て、点と点が結ばれた。

 

 それから暫くして、30歳。

 

 自営業を始め、時間に余裕が出来た事がある。

 

 早速、ジムに通う手続きをし、プールに臨んだ。

 

 鼻で吐いて口で吸う。

 

ぶくぶくぱっ。

 

出来た。

 

落ち着いて、それを繰り返す。

気がつけば、向こう岸に手が届いた。

25mを足をつかずに泳ぎきれたのだ。

 

 エイドリアーン。

 

 と叫びたくなる気持ちを抑え、小さくガッツポーズを作った。

 

 ひょっとしたら、色んな事は、こんな事ばかりで出来ているのかも知れない。

 

 何も言わずに失っていった日々を思い、センチメンタルな気持ちにサ。

 

 なったんだネェ。