子供の頃、自宅の一番近くにあったスーパーマーケットは平屋建てだった。そんなに広く無いお店でも、当時は活気があり、アドバルーンが上がっていたり、ちんどん屋が来たりしていた。
そんな中、年に一度くらい、ヒーローショーもやっていた。
確か、小学校就学まえに一人で見に行った記憶がある。
その中で、今ではお決まりの、悪役が観客から数名子供を連れてきて、色々質問するイベントがあった。
最初、私は怖すぎて、走って家まで帰ってしまった。チャイムを鳴らして入ってくるのでは無いかとビビリたおしていた。きっとその頃知ったばかりの、ナマハゲの存在と重ね合わせていたのかも知れない。
暫くして、戻った時には、ショーそのものが終わってしまっていて寂しい気持ちになった。
そうならないように、次回よりヒーローショーは後ろの方で、観客の隙間から覗き見ることにした。悪役に捕まらないよう息を潜め、ヒーローの登場を心待ちにしていた。
それから行く年月、私は幸運にも所帯を持つ事ができた。一男一女の子宝にも恵まれた。
長男が大きくなり、彼は御多分に洩れず「〜レンジャー」や「ライダー〜」に夢中なっていった。
そして、当然の如く、遊園地で行われるヒーローショーに行く事となった。
会場には早い目に着くことができた。娘のベビーカーが邪魔になるので、妻は端の方で、私と息子はステージの真ん中の方で座り、開演を待つ。
曲が変わりステージ上にはお姉さんが現れて、色々な説明を始める。
そして、いよいよショーが始まった。
息子は目を輝かせてステージを見つめている。
これだけでも来た価値はあった。
悪者が登場し、やはりその時も、子供をさらおうと物色してきた。
私は息子にステージに上がりたいか聞いてみた。すると驚いた事に、頷き手を挙げた。
まあ、当たる筈はないとたかを括ってていたが、なんと近くに来た手下が息子の手を引きステージに上げてしまった。
ステージに上がったのは息子含め3人。他の二人は頭ひとつせのたかさが違うお兄さん達。
泣き出したりしないだろうか、ハラハラしながら事の成り行きを見守った。
最初に名前と年齢をきかれた。
先にお兄さん二人が無難に答え、次は息子の番。
おまえ。名前は?
〜〜です。
歳は?
5歳になりかけている。
それは4歳と言うのだ。
会場がどっと沸いた。
逃げてばかりいたの男の息子は、悪者の親分と対等に渡り合っている。
誇らしい様な、恥ずかしい様な、複雑な気持ちが渦巻いていた。
そして解放され、私の元に戻ってきた。何か、お土産を渡されたらしく、紙袋をもってきた。それをもらおうとしたところ、悪者の親分が私に向かって、
なんて親だ、
と言ってきた。しかも、3回程。
年端も行かない子供をだしに、お土産を貰う嫌な親に見えたのか。
まあ、ほっておこう。と考えた。
そして、ショーは終わり、妻が近づいて息子を賞賛した。
それからの帰り道。
先程の親分の言葉が引っかかっていた。
何故繰り返す必要があったのか?
何かを期待していた?
程なくして、あっ!!
と落雷の様な気づき。
フリだ。あれはフリだったのだ。
そんなの悪者に言われたくないよ。
と言う、私の言葉待ちに違いない。
あれだけ笑いの取れる子の親に期待したのだ。それが成功すれば、もっと会場が沸き、ショーは大成功だっただろう。
その千載一遇のチャンスを私はふいにしたのだ。
今でも思い出す度に後悔に苛まれる。
今考えるのは、この思い出。
凄い息子の話。
私の失敗談。
どこに収めればいいか。
私の中の置き場所に困っている。