今週のお題「人生最大のピンチ」
私の一番最初の記憶は、上記の絵の様な場面だ。
昭和の古めかしい電灯を仰向けで眺めていた。
時折視界に入る、母親の顔。
寝かしつけられている最中なのだろう。
子守唄が聞こえている。
ねんねんころりよ、おころりよ。
こんな歌詞で始まる物悲しいメロディーと、常夜灯のオレンジが、今の私の郷愁を強烈に刺激する。
暫くして私は心地よく寝てしまう。
この次の記憶が、今回のテーマである、人生最大のピンチであろうか。
母親に手を引かれながら、
大丈夫、大丈夫。
と励まされているシーンから始まる。
最近になって母親に聞いたのだが、
私は当時、2歳。
言葉もまだおぼつかない。
見上げる母親の顔もかなり遠い距離にあった。太陽の光に遮られ、表情も曖昧模糊としている。
ものもらい。
私の住む地域では「めばちこ」と呼んでいた。
ソイツが酷くなり、手術しなければならなくなってしまったそうだ。
そう。これは、手術当日の記憶。
電車に乗り数駅先にある、病院に向かう。
その間、母親はひどく狼狽していた様に思う。
私自身、何をされるかなど分かるはずもなく、外出を楽しんでいた。
そして、病院に到着。
私には当然説明もなく、ベットに仰向けで寝かされた。
程なくして右目にメスが、近づいてきた。
私は、本能的に身をよじり危険から逃れようとする。
「人生最大のピンチ」だ。
お医者様は、
「お母さん手伝って下さい」
仮面ライダーの改造を施されるシーンさながら、暴れる私の身体を、母親、看護師様達が押さえつけた。
万事休す。
メスがもう瞼に当たる刹那。
「やめろ!!ヤブ医者!!」
自分でも驚くほどの大声で、知らない単語が飛び出した。
その声虚しく眼前が赤くなり、そこから先は暗転。
場面転換。
私は、眼帯を取って周りを眺める。
右目で見る景色は黄色がかって、本当になにか改造されたと思ったものだ。
それにしても、あの声はなんだったのだろうか。
今の私はこう思う。
あれは私の前世の記憶。
絶体絶命の危機に新たな人格を上書きされきる前に呼び起こされたに違いない。
彼に次会う時は一献酌み交わそうと思っている。
久しぶり。
今世は穏やかな、人畜無害なヤツですよ。
猫。
やっぱり。
なんてな。