私の地元には、とても大きな神社があった。お正月には、100万人程の参拝客が来る様な。
例に漏れず、私たちもその神社に良くお参りさせて頂いた。
そして、私が小学校中学年の大晦日。
三つ上の兄が、夜に年越しの瞬間を神社で迎えたいと、仲間たちとお参りに行くと言う。
私もついて行くと伝えると、渋々ながら了承してくれた。
初めて、真夜中に外出する。
親もついては来ない。
不安や期待が複雑に入り混じった感情に支配されながら、当日を迎えた。
出発は22時過ぎだったろうか。
いざ、神社へ。
玄関の扉を開け外に出ると、小さい物音でも遠くまで響くひんやりとした空気を肌に感じた。
歩き慣れている筈の道の風景も、真夜中の顔がある事をその時初めて知った。
恐る恐る、兄の後ろを隠れる様に歩いていく。
暫くすると、遠くに光が現れた。
神社に続く参道だ。
とうとう我々は、夜店の群れに出会したのだ。
まるで昼間の様な光量と熱気。
先程までの静寂のコントラストと相まって、私は圧倒された。
当時、スマホもポケベルすらない時代。
兄達に面倒をかけられないと、一層注意深く後をついて行った。
焼きとうもろこし、たこ焼き、イカ焼き、くじ引き、ベビーカステラ、あとお酒なんかも。大小様々なテントが両サイドにびっしり並んでいた。
そんな夜店に心を奪われながらも、本堂へ向かう。
—敷居を踏んだらあかんで。
そんな事を言われながら、漸くカウントダウンが行われるであろう本堂前へ着く。
我々が到着してからも、後ろからどんどん人が入ってきて、気がつけば360度全方向、身動きの取れない状況となった。
怖い。
ワクワクより、ドキドキがまさってしまった私。
パニック状態になりそうなのを必死で堪えていた。
すると、もう少しで24時になりそうだと、カウントダウンの声が聞こえた。
それは、みるみるうちに大合唱となった。
—3.2.1
怒号ともわからぬ声が境内にこだまして次の瞬間小銭が頭に降ってきた。
あいてて。
そこから、どこもかしこもおめでとうの声。
そして、先頭から順にお参りが始まり、少しずつ前へ移動する。
そんな時。
兄の靴紐が解けた。
私は、何もかもが初めてで、なんとか迷子にならない様に必死に兄の手を握っていた。
—ねこしりちゃん。靴紐結びたいから手ぇ離して。なあ。踏んづけられたらこけてまうやろ。
私はそんな声もお構いなし、一層手に力を入れた。
—ねこしり。おい。しばくぞ。
知らない。後なら構わない。
今はムリ。
俯いた顔で手を握り続ける。
暫くして。
漸くお参りの列から離れる事が出来た。
兄はぶつぶつ言いながら靴紐を結んでいたなあ。
それから、40年。
私は兄に手を引いて貰わずとも、初詣ができる様になっていた。
そりゃあ、ね。
ただ、あの頃の怖がりは、ちっとも治っていない様にも思える。
今年は、一念発起。
こんなお守りを購入。
相手は、
勿論、
自分の弱虫だ。