表と裏の高速回転

色々な気持ちを忘れない様に

流儀


 一ヶ月分の献立を貰う日。

 

 私は毎回、目を皿のようにしてアレがあるか探す。

 

魔法の粉。

 

 牛乳が、コーヒー牛乳になるアレだ。

 

 アレが出る日は、クラスメイトのこだわりを感じずにはいられなかった。

 

 私の場合。

 

 牛乳以外のご飯を食べ尽くす。そして、牛乳瓶と対峙する。

 

 アレの袋を開け、瓶の縁につかない様にど真ん中を狙って粉を注ぐ。

 この時の私の集中力は周りがスローモーになる程高まっていた。

 

 そして、傍らに置いてあるストローで粉が溶けきるまで、丁寧に混ぜる。

 決して泡立たないように細心の注意を払って。

 

 小麦色に染まったそれを、少し眺め、ゆっくりストローで流し込む。

 

 金と銀のエンゼルが私の周りで飛び交う。

 

 至福のひととき。

 

それが終わり、周りに目をやる。

 

 牛乳を半分くらい飲んだ後、アレを入れる者、わざと溶かさずにフロート粉で上下吸い分ける者等、多種多様な流儀が見られた。

 

その中に。

 

 最後まで封を開けずに牛乳を飲み切り、食器を返してしまう友人がいた。

 

 どう言う事だ。

 

 家に持って帰って楽しむのだろうか。

 色々考えていると、チャイムが鳴り、お昼休みになった。

 

 すると彼はベランダに出て、アレの封を破り、直接ストローを袋の中に突き立てたではないか。

 

 直吸い!?

 

 外の風に吹かれながら、アレ100%を楽しむ彼の横顔に大人の姿を見た。

 

 羨ましい。

 

 次のアレの機会。 

 

 私も大人の仲間入りをすべく、私スタイルを捨て同じ様にベランダへ。

 

 おもむろに、ストローを突き立て苦み走った顔でアレを吸ってみた。

 

 突然入ってくる粉に喉が慣れず、激しくむせてしまった。

 落ち着いた後も、強烈に入ってくる甘みと苦味に苦戦した。

 

 そして、私にはまだ早いと言う結論に至る。

 

 それから三十数年経って大人になった今。

 

 

挑戦ですか?

 

 

しない。です。

 

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