表と裏の高速回転

色々な気持ちを忘れない様に

茶番

えー、ぶらぶら散歩なんかをしていますと、道端に財布が落ちてある。そんな事は本当に稀ですが、ありますわな。

その時、天使と悪魔が出てきて言い合いになる。そんな経験は今日いるお客さんの中にもあるんじゃないですか。

 

天使が、

さっ、交番に届けましょう。

一方で悪魔が、

ネコババしようぜ。

 

だめです。良いじゃねーか。だめだったら。オメー叩くんじゃねえよ。叩いてません。ちょっと強く触っただけです。それを叩くっていうんだよ。

 

なんて、押し問答。

気がつけば煙幕の中で手や足が出てきてしっちゃかめっちゃかになる。なんて。

あっし、漫画の読みすぎなんでしょうかねえ。

 

話は変わって。ここに猫しりっていうケチな男がございます。

こいつの頭ん中には軸になる私ってやつがおります。

その他、外野っていうんでしょうかねえ。天使と悪魔は勿論、

 

皮肉家

 

買うボーイ

 

そして、最近久しぶりに出会った

 

僕。

 

こんな連中が、こやつの頭ん中にございますオンボロ長屋の中にひしめき合っておるんです。

 

トントントン。トントントントン。

誰かが私の部屋をひっきりなしに叩いてやがるな。

誰だい、こんな朝っぱらから騒々しいったらありゃしない。

開けるよ、ちょっと待っとくれ。

 

あれ、えらい剣幕でどうしたんだい、僕さん。

 

これが落ち着いていられますかってんだ。

あの、皮肉家の野郎ですよ。

僕が知らない間にあんなのとつるんでたんですか。

側で聞いていてこっちまでムカっ腹が立ちましたよ。

口を開けばお前みたいなもんが、お前みたいなもんがあって。

あんなコテンパンに言われなきゃいけないもんですかね。

 

うーん。あれでも、一時期よりはマシになったんだけどねえ。言ってる事は間違ってないからよ。

 

そ、れ、で、も。

それでもですよ。人にこうしろああしろって言うアドバイスをあんなに頭ごなしに言われて素直に聞ける人間が居たらお目にかかりたいですよ。

かの有名な海軍大将、山本五十六も、

 

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ

 

って言ってるじゃないですか。

じっくり人を見て、しっかり指導して、最後に褒めて伸ばすって。

コレですよ。コレ。

あんな奴の言う事なんて、聞いてやる必要無いですよ。絶対。

 

まあまあ、落ち着きなさいよ。

そうだ。買うボーイからいい物を貰ったんだよ。ちょっと待っとくれ。

 

奥に行って、私が何かゴソゴソしております。

暫くすると、良い香りがしてきました。

 

何ですかコレ?

 

異人から買ったんだと。

お茶だとアイツは言ってたよ。

 

それにしても真っ赤じゃないですか。

コレがお茶。

 

「せいろんてい」って言うらしいんだが。毒では無いだろうよ。

まあ、飲んでみようや。

 

ズズッっと二人飲みましたら、

 

ああ、旨し。せいろんてい。

 

コレ、美味しいですね。

緑茶とはまた違うコクと言いましょうか。

 

だねえ。落ち着いたかい。

 

いや、僕はまだこれくらいでは。

そうだ。アイツ自分の事、皮肉家って呼ぶなって言ってましたよね。

じゃあ、他の名前で呼んでやる。

何にしようかなあ。

そうだ。

このお茶に引っ掛けてやろう。

 

「正論帝」だ。

 

正論しか言わない、愚帝って意味です。

正しいからってなんでも言っていい訳じゃ無いぞ。

お前もお茶にして飲んでやるわ。

わはは。

 

まあまあ、その辺にしときなさいよ。

 

と、嗜めるか嗜めないかのその時。

 

おいおいおい。

黙って聞いていたら、いい気になりやがって。この長屋の壁の薄さを知らねえって訳はねえだろう。

 

皮肉家がずかずか部屋に入ってきた。

どんと、2人の間に座ります。

 

いいか、お前は最近久しぶりに会ったから知らねえだろうがな。

俺はコイツのふげえねえ人生の一部始終を見てきてるんだよ。

優しく言えだあ。

褒めろだあ。

最初はやってたんだぜ、俺も。

でもよ、ぐるぐるぐるぐるおんなじ所を回ってるのを見せつけられてみろ。

苛々してくるんだよ。

こっちが。

最後まで人の話は聞かねえ、焦って切り抜けようとする。

結局、何も得られず、みっともなくひっくりがえる。

 

おい、僕。

お前なら、どうするんだよ。

コイツをよ。

おい、黙ってないで何とか言ってみろ。

 

ひいい。お助けえ。

 

皮肉家の勢いに負けて、私と僕は部屋からケツをまくって逃げていきました。

 

けっ、お前らみたいなもんに、俺の気持ちなんて分からねえよ。

どいつもこいつもふざけた野郎たちだぜ。

 

何が、正論帝だあ。

 

はは。

 

…それだけは褒めてやろう。

 

旨く俺を

 

茶化しやがった。