高校演劇にも所謂
「大会」
があった。
地区大会から、県、地方、そして全国大会と、勝ち進んで?行くのだ。
結局、私が在籍していた間、地区大会すら突破できなかったが。
ただ、残念とか、悔しいとかは、感じた事が無かった。
何故なら、その時の皆がそうとは限らないが、少なくとも私自身は、演劇を「目的」としてではなく、
「手段」
と、捉えていたからだろう。
練習は頑張っていたつもりではあるが、結果に拘らず、皆と仲良く出来ればいい。
それくらいの意識。
そんな高校2年生時分。
普段は地区大会の上位2校が次の県大会に進む。その年は何があったか忘れたが、3番目の学校も県大会で舞台が踏めた。
我が演劇部がそれに選ばれたのだ。
発表は出来るが、ただそれだけ。
次の地方大会には絶対に出られない。
部の皆の感想は様々だったが、私は密かに喜んでいた。小躍りする程に。
県大会と言うからには、県中から演劇部が集まる。
という事はですよ、
—私の憧れている、美人双子姉妹に会える。
以前、何かの会合で見つけていた。
うちの男部員全員が色めき立つ程の存在感。
よし、この舞台。
気合い入れて行きます。
お芝居の内容は、バンドのお金を稼ぐ為、ハンバーガー屋さんでアルバイトすると言う話。
その中のバイト初日の1シーン。
社員さんに我々は一列に並ばされる。そして、笑顔を見てもらう。
スマイルはタダ。
あのオマージュだろう。
練習や地区大会では、カッコいいアイドルのブロマイドよろしくポーズを決めていた。
が、今回はあのお方々が見ておられるのだ。
爪痕だ。
爪痕を残さねばなるまい。
本番直前になり、仲間達に私は、
—あのシーンでワシは「やる」で。
と息巻いた。
やりたいのは、
「凄い、もの凄い、満面の」
笑顔。
全く何の捻りも無いのは、若さ故か。
暫くして緞帳が上がる。
本番が始まった。
無難に話が進んでいく。
そして問題のシーン。
—さ、皆並んで。笑顔の練習をしますよ。
よし、キタ。ここだ。
さあ、思いっきり笑うぞ。
と、張り切って前を見た。
すると、客席が薄ぼんやりと見えるのだ。
その中に、憧れの方の顔がこちらを見ているのがハッキリと分かってしまった。
緊張。いや、それどころでは無い。
私は、
「あがって」
しまった。
顔は紅潮し、筋肉はひきつり笑えない。
客席がザワついたのは今でも覚えている。
震えた顔で社員さんの方を見る。
そして、
—あなたが一番良いわね。
そんな訳なかろう。
セリフだから仕方がない。
言わざるを得ない。
そして仲間がこちらを見る。
—えー。これが?
それは良かった。
その後の事は、もう覚えていない。
終わった。何もかも。
醜態だ。やらかした。
穴があったら入りたい。
はいりはいりふれはいりほー。
訳が分からなかった。
意気消沈し、帰り支度をしていると、仲間が私に話しかけた。
—猫しり。あの方が褒める内容の感想書いてくれてたで。
—ウソだろ。
私は耳を疑った。
—「あの」演技が出来るのは、
「本物」
ですよ。だってよ。よかったな。
…
憧れの人。今、告白します。
あれは、
「ガチ」
でした。
これは、青春の
「何味」
の思い出になるのか。
今だに答えが出ていない。